先週聴きに行った東邦音楽大学の「魔笛」公演のこと、別の話題のところでひと言触れただけだったので、感想を述べておこうかと思う。
僕は所謂オペラ通いする方々のように何万もの大枚をチケット代に費やす人間ではないので、聴くオペラの数も多くないし、結果的に海外に行っているときに見た舞台の回数の方が多いくらいだ。そんな自分にとってモーツァルトの「魔笛」は別格で細部まで記憶して、楽譜も学生時代の大昔に購入した作品だ。
関係者の話によると大学ホールで先行した川越公演は満席になっていたらしいが、パーシモンホールでの初日は両サイドに若干空席が見られた。日本の歌手については知識がまるでないのだが、採点するとしたら厳しいことになってしまう。オケの拍に乗り遅れ続けるパパゲーノ、声は良いのに音程が決まらない傾向のタミーノ、漫画的過ぎた大蛇、声量が圧倒的に足りない夜の女王、声質に太さがなく深いD音が聞こえないザラストロ、僕としては形容のしようもなく匙を投げたくなる弁者、という布陣では相当惨めな舞台だったのではないかと思われるかも知れないが、実はそんなこともない。
ジングシュピールという形式のこの作品は地の台詞で物語が進行するのだが、今回歌は原語のドイツ語のままで台詞は日本語で演じられた。これは多くの観客に作品をより楽しんでもらうには正しい選択だと思う。時々つまらない冗談も入っていたが、それもご愛敬ということだろう。
舞台としての問題点は見えても、自分の中に作品の基準みたいなものがあるので、不足を埋め合わせながら結構冷静に演奏を楽しむことができた。そういう聴き方を可能にさせたのはこの催しが音大生たちに本当の舞台を体験させる機会として開催される2年毎の貴重なプログラムだと聞いていたからかも知れない。オケの多くは女性奏者で、多分大半は学生さんたちではないかと思う。そして実は手放しで良かったのが合唱で、若い声には生命力があるなあと強く印象に残った。ソリストにも積極的に学生を登用させるくらいになれば、この企画の意義はさらに大きくなるし、本人たちにも貴重な体験の場となるに違いないと思う。そう言えば3人の童子たちには音大生も入っていたようで、やはり初々しさのようなものを発散していた。
シカネーダのこの荒唐無稽な物語はまず楽しくなくては意味がないし、今回の舞台はその意味では楽しいものになっていて合格だったと思う。客席の反応も良かった感じだ。日本人の演技は全般に淡泊なので、僕はシカネーダ座がどんな破天荒な舞台演出を実際に展開したのか、誰か解き明かしてくれないかなあと今回も思った。
さて、「魔笛」と言えば、来月にはピーター・ブルック演出のピアノ伴奏による風変わりな「魔笛」が来日公演されるようで、見たい舞台のひとつではある。
http://www.toho-music.ac.jp/news/assets_c/2012/02/mateki-1205.html
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