Monday, February 15, 2016

Bärenreiter Versions, B-minor Mass - ロ短調ベーレン新旧版楽譜

カミさんが自分用のロ短調ミサ曲楽譜が欲しいと言うので、出掛けたついでに本郷のアカデミアに立ち寄った。ベーレンライター版を手にして見ると、中身の印象がかなり違うことにすぐ気づく。家に帰って比べてみると僕のは1955年版なのだが、新版は2010年だ。一昨年これを歌った時、指揮者が「新版では楽器の表記がなくなった」などと言っていたが、確かにその通り。それ以上に、伴奏パートは音符までもかなり整理されていて、写真のSanctusを見れば明らかだが、例えばまずティンパニがない。和音の数も少ない。旧版が総譜を詰め込んだのに対して、新譜は伴奏用に特化して再編成したのだと思う。
My wife bought a Bärenreither edition of B-minor Mass vocal score for her own use, and I immediately noticed the difference in the content appearance: Mine is 1955 version while her's is 2010. I recall that the conductor mentioned the lack of the instrument indications in the new edition while we sang this music a couple of years ago, but the changes were more drastic. As you can see in the attached pictures, the timpani notes disappeared and there are fewer notes in the harmony in the 2010 copy. The older version simply packed all the orchestral parts, but the new version, I guess, focused on the arrangement for the keyboard accompaniment.


Bärenreiter 1955 Edition
Bärenreiter 2010 Edition


しかも新版には前書き解説が付いていた。読んでみると、この曲の歴史的経緯の説明があり、最新版の立ち位置が解説されていた。最後の章は楽譜を読む際の参考になるので、以下に和訳を書き出しておく。
* * *
ロ短調ミサ曲はどの版でも3つの大きな問題に直面する。初期版に対してどのように対応するのか、バッハの息子たちによる後世の加筆とオリジナルの自筆とをどのように区別するのか、そして自筆譜そのものの不安定な物理的状態ということだ。
とりわけ、キリエとグロリアのパートで成る1733年セットの初期バージョンには数多くの表記があり(オーケストレーションの指示など)、どの版にとっても無視することは難しい。他方、各表記部分はそれぞれ異なる版に属するものということでもある。こうした加筆に配慮しつつ、ふたつの版の分離性を守るために、この楽譜では1733年版からのすべての追加情報は灰色の印刷で提示した。このようにして自筆の音楽表記が明確に見分けできるようになっている。
さらに続く修正、仕上げ、さらにC.P.E.バッハが20年以上の歳月をかけて父の自筆スコアに加えた変更については、肉眼では判別不能なこともしばしばで、これまでは論議の種だった。これを解決すべく、2007年から2008年にかけて、自筆譜から多くのパッセージ(約500箇所に及ぶ)を選んでX線蛍光分析にかけた。オリジナルを傷つけることなくインキの成分分析が可能となる手法だ。ロ短調ミサ曲の場合、C.P.E.バッハの書き込みは父親のそれと区別できたと確信された。対照的に、C.P.E.バッハが関与する以前の楽譜状態の復元については、解決できなかったものもある。
ロ短調ミサ曲の自筆譜に加えられた父バッハや息子バッハによる多くの変更のせいもあって、この楽譜はバッハの自筆譜全体の中でも最も傷みの大きいもののひとつである。特にII部からIV部にかけての損傷が激しい。2002年の修復で手書きの状態は保全されたが、頁から離脱してすでに削られてしまった表記については永遠に失われたのだった。従って我々の今回の版で重要な情報源のひとつとなったのは1924年出版のファクシミリで、遙かに良好な手書きの状態を提示していた。欠損箇所は存在せず、あっても小さいものが多く、頁を通してほぼ判別が可能だった。こうしてすべての損傷パッセージを1924年ファクシミリ版と突き合わせ、適用可能なものはこの版に取り込んだ。1924年にすでに損傷していたパッセージについては、並行処理や最も初期の写譜師原稿に基づいて復元した。大きく修正が加えられたパッセージというのは、専らインキ退化の影響が酷いもので、今日損傷状態にあるパッセージは息子バッハが手を加えた部分である可能性が高い。現存する写譜師の原稿でC.P.E.バッハの最初の関与より遡る時期のものはないので、これらパッセージのオリジナルはどうであったかについてもいかなる確度の再構築も最早不可能である。それらはこの楽譜では括弧で括っている。
この版で我々が目指したのは、J.S.バッハの本来の意図にできる限り近づき、一方でそれが不可能な箇所や、他の版に基づく修復で可能となった箇所を明記することである。読者の方々には、更なる詳細は総譜版の前書きと重要報告の頁を参照されたい。

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